羽田に着いたのは真夜中だった。
1958年9月4日、デトロイトを出発した飛行機は
故障のため予定より1日遅れて到着した。
太平洋に臨む美しい町シアトルを訪れることができたのはよかったが、
ここに足止めされ一泊することになったのだ。
大事は神様の御意のままであり、何が起こるかは解らない。
とにかく真夜中の到着は象徴的なことだった。
その日は、我々キリスト教徒には親しみ深い十字架賞賛祭だった。
財布には、ミラノから肌身離さず持ってきた
祈祷書と架刑のイエス様の像が入っていた。
特にキリスト教の精神性から見て
真夜中とは神の賞賛を受け、神との出会いをもたらし、
そしてイエス様の到来を告げる聖なる時である。
私の人生の中で精神的に特別に重大な節目は、いつも真夜中だった。
飛行機で相席はアメリカ人プロテスタント牧師と
カナダ人ベネディクト会修道女だった。
2人は日本来訪について熱っぽく語り合っていた。
この国での私の宣教活動へのはなむけともいえた。
無事、羽田に着いたのは良かったが、
丸2日間も要した旅の終わりの入国検査は大変だった。
ビザの情報が間違いで入国の許可が下りない。
シカゴの日本公使館で公布されたパスポートは、
通常の3年間でなく2年間の滞在許可となっていたのだ。
空港で私の到着を何時間も待っていた教区の責任者が呼ばれ、
質問を受けている間、私は空港の指定の場所に待機していた。
暫定的な入国は許可されるが、ビザの取り直しが必要で、
後日、再度、空港に来なくてはいけないと管理官達から告げられた。
タクシーを利用して渋谷の教区に着いた。
タクシーは、巨大都市東京を実感するのにふさわしかった。
まだ照明が明々していたので、
夜明けに家路に向かう大勢の人々も観察できた。
到着した教区の教会では老家政婦さんが深々とお辞儀をし、
膝をつき、土下座して、
日本によくいらっしゃいましたと挨拶した。それは早朝2時頃だった。
心に沁みる古風で、敬虔な仏教徒の作法だった。
（以下略）
