「セブ島、青い海、マンゴー、バナナ、あ、それから灼熱の太陽・・・
フィリピンって言ったら、そんな感じかな?」
十年来の親友、しなちゃんはこう言った。
彼女は、韓国の日本語学校で同僚として働き、
今は長野で日本語教師を続けている。
「でも、なんで突然フィリピン?
もしかして、次はフィリピンへ行くの?」
好奇心旺盛な彼女は、
パフェに添えられた巨峰の粒と同じくらいの瞳で、
私の顔を覗き込んだ。
「違う違う、実は今度うちの学校に
フィリピン人の介護福祉士候補生が来るの。
それで私、日本語研修の担当になってね。
まずはフィリピンの情報、集めようと思って」
しなちゃんと対照的に、私の瞳は、ややうつむき加減だった。
「そうなんだ。で、どのくらい研修受けるの?」
「六カ月。半年経ったらすぐ、介護施設で働きだすんだって」
「へえ〜半年って言ったら、初級が終わるか終わらないかって感じだよね。
フィリピンで日本語の勉強したことあるのかな?」
「ほとんどないらしいよ・・・」
「え〜〜大変! それですぐ介護の仕事?」
「うん、おまけにね、四年後には日本人と同じ国家試験受けて、
パスしないとそれで帰国しなきゃいけないんだって」
「そりゃ厳しいね。だって、フィリピンって非漢字圏でしょ?
日本人だって難しいって聞くよ、その試験」
「そうだよね・・・」
こんな会話を交わした一カ月後の、二〇〇九年五月十日、
七十八人の介護福祉士候補生が、海を越えてやってきた。
(以下略)