ぐあ〜んという衝撃で目が覚めた。
バスの中だった。
ソファーのような大きな椅子から、ずり落ちそうになっていた。
わずか十五席しかない、高速道路専用の長距離バスだ。
真ん中に通路があり、
両サイドに航空機のファーストクラスの座席が据え付けてある。
二層構造で客室は二階だ。
台湾支社のある台中市から、首都台北に向かう高速一号線を走っていた。
台北へは通常、料金の安い国鉄バスを利用していたが、
支社員の王君が勧めるままに、今回は豪華バスを選んだ。
運転席は一階だから、客室の前方は視界を遮るものがない。
高速一号線はもう数百回走っている。景色を見れば場所が分かる。
台湾のシリコンバレーと言われる新竹から、
桃園インターチェンジにかけてだろう。
上り車線は渋滞のクルマでびっしりだ。
トイレに立つなら今だと思った。
いったん目覚めた乗客たちは再び眠りを貪りはじめた。
客室の中ほどに、一階に下りる階段がある。
四段しかないステップを降りきったところで、バスは急発進した。
ぐんぐん速度を上げていく。
渋滞に捉まった直後、突然堰を切ったように流れ出すというのはよくあることだ。
二階に戻るべきか否か逡巡した。
だが戻ったところで失禁する懼れがあった。
一分か二分、私は立ち往生した。
階段下から二メートルほどのところに、トイレは見えているのだが、
足を踏み出そうとする私を、阻む何かがあった。それが何だったか……。
どーんと再び衝撃が襲った。最初の衝撃を凌ぐ大きさだった。
私の身体はもんどり打ってすっ飛び、運転席後ろの壁面に頭から突っ込んだ。
私の網膜に残った最後の“画像”は、
バックミラーを通して私に気をとられる運転手の眼だった。
(以下略)