まえがき
物静かな人でした。
そんな母がある日突然「短歌を始めようと思うの。」
と言ったときのことを、今でも覚えています。
その日の母の話はこうでした。
下北沢でふと立ち寄ったブティックで、
老婦人が店主に店の名前の由来を訊ねていたので、
なんとなく興味をひかれた。
店を出てからあちこち散歩をしつつ家の近くまで来ると、
先ほどの老婦人が目の前を歩いていた。
好奇心から「さっき下北沢のブティックにいらしたでしょう?」
と話しかけてみると、婦人は少し驚いた様子だったけれど、しばし立ち話をした。
そして帰り際に婦人に「あなた、短歌やってみない?」と誘われた─。
(以下略)