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刊行案内(一部抜粋)
お客様インタビュー
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刊行案内
内容紹介(一部)ビール、ちょっと毛色の変わった話我が家にいとこが居候していた時期があった。いとこが二十歳、私が十歳だった。年上の兄弟がいない私にとって、彼女のすることなすことすべてが興味のまとだった。 毎晩、いとこは父と一緒に晩酌をした。父は日本酒、いとこはビール。彼女は瓶を半分ほど空けてから夕食にはしを付けた。食後、残ったビールを持って、私と一緒に使っていた二階の部屋に上がって行った。父は「独りでゆっくり飲みたいのだろう」と酒飲みらしい思い込みをしていた。 ところが、そうではなかった。残したビールをいとこは腕やすねに塗っていたのだ。初めて目にしたとき、私は「何をしているの」と思わず叫んだ。彼女は「ビールで体毛をふくと茶色くなって、目立たなくなるのよ」と平然と答えた。さらに「襟足に塗ってくれない」と注文した。 私は興味津々、早速手伝った。ビールを化粧用の綿に染み込ませては塗る単純な作業。だが、「毛に塗ってね。皮膚にはなるべく付けないように」といとこの注文はなかなか難しい。私が悪戦苦闘している間、彼女は足の爪にマニキュアを塗ったりしていた。一時間くらいあと風呂で流す。十日ほど繰り返すと黒い毛が金髪のようになった。 女性の飲酒には寛大な父だったが、食べ物を粗末にすることには厳しかったので、毎晩私たちはひそかにこの儀式を続けた。今思い出すと、かなり色気のある光景だったに違いない。芸者置屋の二階で、姉芸者の襟白粉を塗る妹分の図。あるいは、立てひざで足の爪を切る町娘と、後ろに回って日本髪を直す娘の図。浮世絵になりそうである。 あれから四十年近く経つ。いとこと違って体毛の少ない私に、ビール塗りの必要は無かった。だが、喜んでばかりいられない。最近、額の生え際の地肌が透けて見えるようになった。ビールで脱色するほど毛が有ったほうが良かった、と鏡を見るたびに思うのだ。 |