今から二十八年前、水府短歌会の合同歌集に母は次の様な文を載せています。
三人の子供達が就職し、ほっと一息の折、友に誘われ心の伴侶として歌を作ってみる気になりました。以来、友に手を引かれ遅々として歩んできたものの、文才もなく単なる三十一文字の羅列に過ぎず、報告、説明に終り、作歌のむずかしさをしみじみと感じて居ります。歌集を読み、立派な叙景歌に一幅の絵を浮かべ感動し、叙情歌に涙することもあり、歌への憧憬は限りなく、独りの時も友となり心の支えとして力づけてくれるような気がしてなりません。拙いながらも、人生の折々に浮かぶ思いを日記のつもりで詠んでみたいと思って居ります。
母は今年卒寿を迎えます。母はノートにたくさんの短歌を書き連ねており、是非形にして残したいと思いました。日々の小さな出来事を三十一文字に託し、母にとってはまさに日記の様なものだと思います。母が小学二年生の時に教師であった父を亡くし、女所帯の苦労話は何度か聞いた事があります。亡母を思い詠んだ歌は母の原点の様な気がします。歌の整理をしながら、その時々の情景が思い浮かび、私達にとっても大切な一ページとなっています。
母と共に父も今年卒寿を迎えます。これからも二人揃って新しい歌と共に明日へ歩んで行くことを願っています。これまで私達を見守り、導いてくれた両親に心より感謝いたします。