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刊行案内(一部抜粋)
お客様インタビュー
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刊行案内
内容紹介(一部)艦長室にて 四月七日、十一日、十三日の書信三通、万朝及日々の両新聞(共に四月十一日迄の分)昨夜到達拝誦仕候 実は十一日に着すべきを最新とし本艦は十一日出動に付最早郵便を受取る機会は次回の入港迄はなきものと断念し居たる折柄受取りたることゝて一層有難く興味を以て開封仕候 先便小生の想像を申送り候通り桜の季節と相成り世間も浮立ち外堀の桜花も例年通り見事に咲き候由今年も新聞にて見たる通り 観桜の御宴は新宿御苑にて御催し相成り候由当日四谷通の賑は推察仕候 昨年春は観桜御宴の当日父上様入院相成り小生も急に所労届をなし御宴を御辞退申上げし次第にて御宴のことを聞くに付き今更に昨年の事を思ひ出し候 子供等益々生長手数を取らざる様次第に相成り対一も課外勉学に追はれ遊びも次第に薄らぎ從て妹等を苦むることも減じ候由誠に喜敷存じ候 満子の学齢期も来春と相成り月日の経過の速なる事小生の着南来既に五ヶ月に及ばんとせるにても明に候 後八ヶ月は長き様に候も経過して見れば存外速ならんと目下の単調なる生活状態に厭気生じたる心を慰め居り候 小生は責任は重大に候も身体丈は兵員の如く苦くは無之候 此から益々多忙となり射撃等を行ふ様に相成り候はゞ時日の経過の益々速なるを覚え候事と存じ候 対一の世話に成る松井氏への返報相済し安心仕候 子供等の御客の時の喜び様、帽子や服を調製して貰ひての喜び様眼に見る様に思はれ候 満子も大変大人しく相成り令子もよく御役に立つ様相成り候由御丹精嬉敷存じ候 清子も追々姉様方と同様に大人しく成長し御役に立つ様可相成候 左様に悲観するものでもなく夫々相応に役に立ち立派な人となるべく候 竹亮は何等悪感情を有せぬものと小生は信じ候 万一の事あれば男子二人は小生方に依頼したしとのことなりしと敬一よりも来信有之候 竹亮には戝政の困難は大に同情す 先年の如く高利貸の借金にて苦むが如きことなき様せよと注意致置候 五円の郵便切手を竹亮に送りしことは先便通信の通りに候 当地の宝石は余り思はしからず矢張り本場は古倫母(印度の錫蘭)に候 本艦同地に行くの機会あらば其節は何か買求め土産と致すべく当地にては買入れぬ考に候 過般の宝石の代価は今は記憶し居らず候 あれ丈で十五円に候(三宅中佐に若干五円丈譲り候)宝石屋は度々艦に売りに来り候も小生は相手にせず候 宝石の善悪の見分は兎ても出来ず稍もすれば不良品を高く売り付けらるゝ虞おそれ有之候故小生は高価な品は過般は買求めず候 福田又一氏より来状あり福田庫文司氏の妻君の兄死亡され妻君も亦重病に罹られたることある由又一氏は一時収監されしも罰金にて相済し今年は立候補を断念の由但し控訴中とのこと 近藤少佐より来信あり桜花を封入しあり候 観桜会の代りとして小生は賞翫仕候 都博覧会の絵葉書は面白く拝見仕候 実物様によく出来たる写真と見受け候 此れで博覧会も見物仕候 御蔭様で有難く存じ候 一昨日矢矧入港宮治氏と会し同伴三時迄上陸自動車にて病院に入院中の分隊長大槻大尉を見舞ひ夫れより植物園に至り瀑の附近にて涼風を味ひ市内を馳せ海岸の運動場に至り候処夥敷人出あり何やらんと眺め候へば須磨の下士卆の毎夕行へる相撲、柔道、撃剣を群衆の見物するにて有之候 西洋人も二、三十人あり椅子に腰掛け日本人、支那人及土人の群衆にて有之候 午後六時旭日「ホテル」に帰り鶏の鋤焼にて宮治氏と共に「ビール」一杯を傾け候 此日上陸するや宮治君を案内して先づ市内をテクテク歩行仕候 御蔭にて馬来土人の嫁入行列を見候 馬車二台に先導すは喇叭の如き音楽入にて行列は歩進仕り候 花嫁さんは矢張り色黒跣はだし足の土人に候 耳や鼻に宝石の入りたる環を貫き下げ装飾とし二人の介副女に助けられ頭より造花のビラビラしたるものを冠り居り候 白粉を附けることは黒き色の人も同様と見受け候 但し地が余り黒き故白粉は無効に候 昨日は午後一時十五分より第二駆逐隊司令と同伴上陸レシデント知事の招待に赴き候 自動車の迎あり知事自ら自動車を運転し十五分位にて植物園の近所の官邸に赴き三時迄かゝりて食事仕候 同席者は知事夫婦(過般本艦に招待の時来りし人)と港務長夫婦と外に洋人一名に候 皿数は四、五に候も凝りたる馳走にて帰りて夕食は食はれぬ程に候 帰りは又自動車に送られ波止場に待ち居たる須磨汽艇にて利根に赴き候 同艦は入院中の患者収容の為昨日午前七時入港仕候 午前艦長来り宮治君も来り三人にて円坐雑談仕り候 本艦分隊長大槻大尉は利根に便乘せしめ新嘉坡に転院し最近の便にて内地に帰らしむることゝ致し候に付小生利根に赴き之を送り候 利根、矢矧共に昨日出港仕候 同大尉は熱は下りたるも結核菌居りし故一日も早く内地に帰らしむる方宜敷万一永く此地方にありては病の重くなり動くこと出来ぬ様になりては大変と存じ候 多分十一日頃新嘉坡発帰朝可仕候 同大尉は佐世保鎮守府附と相成り候 柳沢大尉よりも弱り居たるに付何れも托送仕らず候 横田来信によれば富子は長女を伴ひ山口に行き川合に宿泊仕候由横田の娘も川合より高等女学校に通学のことゝ相成り候由 先々月迄は安き弗なり我壱円は壱弗拾仙位に相当せしが今月よりは我壱円は壱弗にも足らず九十仙となり即ち一割引と相成り候 之が為先々月迄は食卓は小生の官給の食卓料にて剰銭有之候も先月よりは拾円の不足と相成り候 又先月は「タンヂョンブンカ」に自動車にて行きし故自動車代七円も取られ候故四月二十二日の現在金参百貮十円となりしも月末の拂をなして今は貮百六十五円と相成り候 此月よりは航海加俸と戦事加俸計百九十円故百円内外は残るべく候 好便あれば又二百五十円位送金可致候 本月二日は士官室士官四名、次室士官四名を招き会食仕候 小生の好きな「ライムジュース」を買入れ候 「ポートワイン」も買入れ候 本日暹羅国の小軍艦入港仕候 色黒く丈低き人種に候 小生は黒くなりしも夫れ程には無之候 夏服にて撮りし写真出来候に付別包にて貮葉送り候 一葉は敬一に 本日は日曜上陸日に候も母の命日に付謹慎上陸仕らず候 昼間より雨あり涼しく候 五月六日 |