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刊行案内(一部抜粋)
お客様インタビュー
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刊行案内
内容紹介(一部)1. エルサルバドル太平洋岸徒歩縦断何日も前から、徒歩縦断は危険だと考えながらも歩き続けている。まるでSF 映画「サルの惑星」で人類が滅亡した砂上を歩いているような錯覚を覚える。強烈な太陽、紫外線を乱反射させる波と砂浜、影を作るものは何もなく帽子もなければサングラスもない。あるのは「ニカラグアま で歩いてやる」という虚栄心だけだ。なぜ、こんな馬鹿げたことをやっているのか。 歩き始めは楽しかった。スカイブルー、ホワイトビーチ、ビックウエイブのすべてが私のものであった。宿、食事、リゾートビーチと好きな時に休み、好きな時間に豊富な海の幸を味わい、歩くのに飽きた所に都合よくホテルがあった。この素敵な徒歩旅行を編み出した自分のアイディアに陶酔した。カクマルはやはり旅の達人だ、やはり旅は独りにかぎる、そうつぶやきシローになりながら、太平洋の彼方に沈みゆく赤い太陽に、ワイングラスをかかげていた。う〜ん、人生は遊ぶためにある。 ところがある日(あるいはある場所)を境にして状況が一転して不快なものに相移転した。予測困難な事件が太平洋の波のごとく襲ってきたのである。まず、人に会わなくなった。人がいなければ宿が、食べ物が、水がない。これまであった緑も消えた。今いる場所が分からない。正確な地図がないのが悪の根源だが、何度も買おうとしたが手に入らなかった。宿にあったイエローブックの地図をポケットに入れているが、不正確すぎて役に立たない。地元の人に尋ねても、彼らは10キロも先のことには全く関心がない。何とかなるだろう、が甘かった。いつのまにか炎天をいだいて乞い歩く、山頭火的行脚に変わってしまった。水を乞い歩く旅になろうとは! 今日がFATAL(最悪)である。朝8時から歩き始め、持ってきた水はすべて飲み尽くしたのが午後2 時。最後に数滴残っていた水を飲み干し、絶望のあまり、ペットボトルを海に投げ捨てたのは午後3 時。その間、休んではいない。休みたいが全く木陰がない。口の中は太陽の黒点のように熱く、唇も割れてきた。声が出ない、いや、出したくない、無駄なエネルギーは使いたくない。本気で尿を飲もうと考えたが尿も出ない。尿気さえ起こらない。真っ青な空にギラつく太陽が憎らしい。あまりにも眩しいので目を閉じては100 歩歩き、薄目を開けて方向を確認してから、また100 歩。これを波の数ほど繰り返してきた。蜃気楼、これも何回も見て、その度に失望を味わってきた。森や林があるように見えるが、近寄って見ると何もないのだ。なぜ人がいない! 地球はどうなったのだ! まさか核戦争が今朝あって俺だけ生き残った? 俺のなけなしの銀行預金はどうなった? 畜生、藤井、あの時の借金返せ! ついに発見、煙だ。今度ははっきり見える。煙があれば人がいる。人がいれば水がある。そいつが山賊であろうと、海賊であろうと同じことだ。水がなくては死んでしまう。しかし、煙が立ち昇る所に近寄って行くが、人の気配が全くしない。さては、奴らはどこかに身を隠し、私が油断したところを、後ろからナイフでグサッ! とはいかなかった。煙は上がっているが、足跡がない。マキを集めた気配もない。自然発火だ! ガリレオよ、なぜこうなる? ! 「ウワッー!」と意味のない叫びをあげ、リュックを投げ捨てると砂地に倒れこんだ。昔、バルセロナに留学していた時に「プラトーン」という映画を観て強烈に脳裏に残っているシーン、これがフラッシュ・バックした。命がけで逃げる米兵の背後から、ベトナム兵の銃弾が刺さる。米兵は両手を挙げて膝をつき、ゆっくり倒れるスローモーションのシーン。このシーンをなぞったのが私の「ウワッー!」という絶望の表現であった。 絶望の時の表現は、意味のない叫びになる。泣いても、叫んでも、手に掴んだ砂をどんなに遠くに投げたところで、地球の自転は止まらない。傾きかけた太陽は、まもなく確実に西の海に沈み、やがて恐ろしい沈黙の闇がやって来る。数日前には、あの沈みゆく太陽が美しく見えた。今は世界の終末のような、血に染まったような夕焼けに見える。宿があるか、ないかは天国と地獄の差である。やがて訪れる闇から守るものは何もない。テントもない、あったところで、水がなくては朝まで命がもたない。なぜ、こうなる?どこでボタンをかけ違えたのか? エルサルバドル海岸。 歩いても歩いても人がいない。 朝の8 時から海に沿って歩いてきたが一艘の小船も見かけなかった。どうする? こうなると水ボトル1 本$10、いや$100 でも買ってやるぞ。ドラえもんの「どこでもドア」はここまで届かないのか? あのなつかしい声で「は 〜い、お待たせ、お冷、ついでにお絞りセット〜」とリュックの中から出てこないのか? あるいはカザフスタンの学生が好きな「NARUTO」のカカシ中忍が出てきて「悪かったな〜、ナルトにサスケにさくら、忍者の耐久テストはこれにて終了。今日のことはすべて幻覚だ」と砂の中から出て来ないか? あるいはスーパーサイヤ人の悟空が空から降りて来て、瞬間移動で一週間前に泊まった素敵なプールの中に投げ込んではくれないか? コラ! カク丸よ、漫画の見すぎだ。冗談を言っているうちが花だぜ。やがておまえは足だけではなく、その脳も停止する。 いやだ、死ぬのはいやだ。今持っているお金だけでも、あと3 ヶ月は旅ができる。あと$4000 もあるのに、たかが$1の水がないために死ぬのか? ありえない。不条理だ。死因は何とする。極度の脱水症状か? 冗談でもありがたくない。せめて念願の夢であった腹上死であの世へ。今は妻もいないので罪は軽い。いや、それも喉が乾きそうだ。いやこの際、死因はなんでもいいのだ、水だ、みず、ミズ。神よ、マリアよ、アーグァだ! ■追記 この章の苦しさを体験したい人に朗報がある。千葉に飛翔ウルトラマラソンというのがある。60km を8時間以内で走る。8時スタートで正午でちょうど半分、4 時に終わる。私は毎年参加している。今年も昨日参加してきたばかり。来年はあなたも参加しませんか?一緒に走って水の有難さを味わいましょう。 2009・6・1 |