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全体扉

人生は旅である。振り返れば遠くふる里が見え、父母の慈愛に満ちた顔がある。南国薩摩の山里に生を享け、幼年期に戦争の悲惨さを体験し、戦後の耐乏生活と苦学の中、多感な青春時代を送った。その後、防衛大学校入学を機に防人の道一筋を全うした。全国二十数回の転居の中にも伴侶と子供にも恵まれ、五体満足にして三十有余年の官職を完遂した。引き続き十年余の民間での職も体験し、古稀の坂を越えようとしている。人の道は千差万別であり、人それぞれにドラマがある。

私も私なりの道を懸命に歩いてきた。その旅路の途上で数知れぬ人々のお世話になった。父母、兄妹、妻や子供、恩師、学友、厳しい仕事での仲間達、全国各地で会った恩人達など、無数の顔が走馬灯のように浮かんでくる。大宇宙の何億光年という悠久の命に比べれば、一瞬の時かもしれないが、一つの生命体としてこの世に存在し、喜怒哀楽、一生懸命に生きた証を記しておきたいと思う。