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英国社会の研究者である著者が、 弊社発行の寺内孝著「英国一周鉄道知的旅日記」に記録された はじめに本文扉 どんな人にもいえることだが、僕の場合も生きることにずいぶん悪戦苦闘してきた。1940年生れ、翌41年12月8日、太平洋戦争勃発。記憶は3才末ごろから始まり、核心部分に赤紙、召集令状、出征軍人見送り、供出、空襲警報、防空頭巾、B29、グラマン、焼夷弾、1トン爆弾、・・・。 1945年8月15日無条件降伏。満州事変(1931年)に始まる15年戦争で同胞死者310万人、国土は焦土、引き揚げ者、復員、尋ね人の時間、進駐軍、ジープ、パンパン、浮浪者、買出し電車、サツマイモ、配給、クーポン券、ニコヨン、ララ物資、・・・。 サツマイモなんてものじゃない、イモのツル、ナンバ粉、食用ガエル、亀、コオロギ、セリ、草、・・・。南方の戦地ではトカゲ、蛇、人肉。 理性よりも感情、冷静よりも熱狂、熟考よりも衝動、客観よりも主観、和よりも戦に偏った愚かな指導者たち(政、官、財、言論界の大多数)をいただいた国民はみじめなもの。かくして、いまわが国、原爆ドームが世界遺産、かの国イギリスはウェストミンスター宮殿(国会議事堂)がそれ。彼我の相違に、指導層の知性の落差を見てガクゼン。 あのような生き地獄を母子3人、地を這うように生きた。日々の暮らしに事欠いたから大学なんて雲の上。高校? 冗談じゃない。日々の暮らしに・・・、といったじゃないですか。中学を終えることさえ、ふー、ふー。塗装工、旋盤工、失業、臨時工、・・・。現実社会の寒風にふるえおののき一念発起、夜学へ。この語はもう死語に近づいているが、懐かしい言葉だから使うことにしよう。そして臥薪嘗胆、英語教師になった。 僕の夜学時代、先生たちは学者ぞろいだった。おおいに影響をうけていたから、僕も夜学に就職し、勤めのかたわら英国の文学、宗教、社会、歴史の研究にのめりこんだ。論文を書き、本もかいた。だが、どうももどかしい。わからないのだ、英国が。その1つが地理。地図を広げてみるが、ロンドンのピカデリー、エディンバラ、リバプール、マンチェスター・・・、いったいどこなの? というわけ。よし、行ってやろう、と。貧乏旅、第1の動機。 ことわっておくが、元・高校教師の僕、自分の書き物に無駄を重ねてきたわけではない。フランスの学者が「鷲の目」(‘your eagle eye’)と、アメリカの学者が「鷹の目」(‘the eye of a hawk’)と、イギリスの学者が「真実の探求者」(‘a seeker after the truth’)と、別のイギリスの学者が「世界チャンピオン」(‘the world champion’)と評してくれたのがその証し。4人とも世界的に著名な英文学者だ(注1)。 第2は実践英語。今日までいったい何年間、NHKの英語ラジオ講座にくらいついてきたことか。1冊350円ほどの『英会話入門』と『英会話上級』を今も毎月買いつづけ、放送を録音・編集し、来る日も来る日も傾聴、丸暗記する。だが、ヒアリングはいまだにダメだし(50歳代半ばから「難聴」のハンデがあるが)、それに英語の発信の場がないから、いざのとき口をついて出ない。実践のない英語学習なんてエンジンのない車。情けなくって、じれったくて。何とかしなくちゃ、となり、この歳になったが実践の場を求めよう、と。いや、この歳でしか出来なかったのだ(注2)。 第3は、紙の知識(教科書、書籍、新聞などからの)は多々あるが、いわば無機堆積物。目で見て足で確かめて、有機堆肥にできれば、と。 第4は、英国の現実凝視。英国は日本の面積の約3分の2、人口は日本の約半分の6021万人。北海と太平洋に挟まれた小国でありながら、かつて世界の覇者、今なお勢威は衰えない。しかも、言語は世界語。繁栄の根っこに奴隷貿易と植民地政策があったわけだが、その英国、どんな国なの? フィールド・ワークで実像に迫ってやろう、と。 こういうわけで、何年もかけて資金を備蓄し、一か月の貧乏旅にでることにした。ついでにいうが、僕は酒、タバコ、パチンコ、マージャン、ゴルフ、賭け事など一切やらない。外食はしないし、喫茶店さえほとんど入ったことがない。車の免許証は持たないから車は買ったことがない。備蓄はその結果。だから「ケチケチ貧乏旅」。 僕のような年齢になると、一か月間家を空けるのには不安がある。自分自身はいうまでもなく、係累のどこかで何かの不安・不都合をかかえているのが通例。その状況下で、「今」という好機をパッと捉えることになった。イギリスでは失敗が無限に待ち受けているだろう。覚悟はできている。青春のなかった僕には、今こそ青春、飛び出してやるぞ!
注1 ‘your eagle eye’と‘the world champion’は拙論「二人の先哲」(『年報 第30号』ディケンズ・フェロウシップ日本支部、2007)参照;下記サイトで読める。‘the eye of a hawk’はインターネット上の「ディケンズ・フォーラム」2006年11月12日掲載(The Dickens Forum, edited by Professor Patrick McCarthy of University of California, Santa Barbara)、‘a seeker after the truth’は2007年7月14日付電子メールの私信で。 注2 英国で使った英語のいくらかを文中に書き記したが、書籍に記す限り、誤った英語を載せるわけにいかないからネイティブ・スピーカー(Laura Thompson; Nashville)の校閲を受けた(ただし、責任はすべて筆者に属します)。これらの英語のほかにもっと多くの英語を使ったわけだが、通じにくいときにはいい換え、いい換えしたし、対話の局面ではおのずと世界共通語の“body language”を使うことになる。ちなみに、ロンドンで出会った日本の若者はイタリア、フランスを経由してロンドンに来たのだが、彼に「イタリア語できるの?」「カタコトの英語とジェスチャーでいけますよ」。若い人にはかなわない。 |