自費出版の会なら10冊89800円から。編集のプロがしっかりサポートするので安心です。

自費出版
自費出版の会にお気軽にお電話ください。 自費出版の会の編集者が直接、あなたのご質問にお応えします。
自費出版の会 TEL.03-5919-3888 受付時間 10:00〜18:00 土日祝日は除く 自費出版に関するご相談・資料請求はこちらからお願いします。
刊行案内(一部抜粋)
お客様インタビュー
自費出版の会について
自費出版メニュー

刊行案内

小説

著 / 出口臥龍
サイズ:四六判(W127xH188mm)
製本:ソフトカバー
ページ数:274ページ
発行日:2012年11月15日
価格:2,000円(+消費税)
ISBN:978-4-907446-14-7
購入ページへ

出口様は他にも書籍を作られています。


半生回想記
今ひとたびの旅立ち


内容紹介(序章)
序章

「サァーラー、沙羅ちゃ〜ん」

遠くで母の明子が呼んでいる。

マックスを抱いた上城沙羅は、母の呼び声を振り切るように江戸川の土手を急いだ。小柄で痩せっぽち。おでこが秀でて、くりくりした目が利発そうだ。

マックスは隣りの中井家の飼い犬で、白いポメラニアンのオスだ。一昨日からの集中豪雨のために、普段は野球場として使われている河川敷も、逆巻く濁流の下に沈んでしまった。

武蔵野線の鉄橋が架かっている。首都圏を囲むように、郊外を走っているJR線だ。江戸川の東が千葉県のN市、西が埼玉県のM市。鉄橋の手前に、クルマ用の橋と歩行者専用の狭い橋が二つ並んで架かっている。

沙羅は歩行者専用橋に足を踏み入れた。荒れ狂う川の流れに足が竦んだ。ごぉーっという唸りが、低く垂れ込めた暗い雲との間でこだまし、恐怖心を煽る。

赤いカーディガンの胸に隠すように、沙羅はマックスを抱いた。異常を察してか、マックスの前足が沙羅の胸にしがみつく。ブラウスを通して、爪が胸の疵に食い込むようだった。

一台の軽自動車がN市のほうから走ってきた。

「あれ、沙羅ちゃんじゃないの?」

運転していたのは南絵梨の母・智子だった。絵梨は沙羅とは三年一組の同じクラスだ。成績は優秀だが、沙羅にはかなわない。無口で暗い陰を感じさせた。

「ホントだ。声掛けてみようか」

助手席の絵梨が、母の顔を見上げた。

「でもあんた、沙羅ちゃんは嫌いなんじゃない」

智子の、赤ぶち眼鏡の奥が、キラリと光った。

クルマを追い越すように、武蔵野線の電車が近づいて減速した。鉄橋を渡りきったところがJRの駅だ。

電車が過ぎ去ってから、沙羅はマックスの腹が下になるように抱きなおした。

「ほら、凄いでしょ」

マックスの視界で泥水がのたうつ。首を捩じって、沙羅の顔を見上げた。救いを求めるかのような瞳だ。

「かわい〜い。私だけのマックス」

(以下略)