昭和五十一年十一月号
一、母の日の心づくしか俎板の窪みなほしてくれたる息子
二、年毎に祭礼むかふるしきたりに馴れて赤飯鯖ずしつくる
三、どしゃぶりの雨におもおも傾ける紅ばらは血の雫をたらす
四、文楽のあはれを誘う語りくち盲目の朝顔ひき又唄ふ
五、新緑の街路樹の下肩並べ振り袖姿の花と乱るる
昭和五十一年十二月号
一、気をつけてと常無口なる子の声に送られて夫と今朝の旅立
二、夕もやにかすむ淡路の島かげを茜にそめて陽の落ちゆく
三、夕もやに沈む阿讃の山並みの彼方はるけく母老いまさむ
四、湯けむりの黄色く染むる山肌に硫黄の花咲くえびの高原
五、みんなみの長崎鼻の陽をうけて激しく赤しハイビスカスの花
(以下略)