芽生え
船の舳先のような林が、すぐそこに迫ってきていた。
山頂近くからかろやかに滑走してきた女性が、
鮮やかなターンステップで止まると、
後続の二人も鋭いタッチでパラレルの滑りを止めた。
シャー、シャッ!
シャープな音を残し、パウダースノーが日の光を反射させながら、
清涼な山の空気にゆっくりと舞いあがって行く。
「ねえ、こんどはこっちに行ってみない?
同じところばかり滑っていてもつまらないわ」
二番手に降りてきた麻耶が、林の左手、
山側の樹々で覆われた狭いコースをストックで指し示した。
「林間コースね。面白そうだわ。行ってみようか?」
「いいけど、まだ亜紀が来ていないよ。何処行ったんだろう?」
途中まで一緒に滑っていた美球が、
今来たコースを、手をかざしながら見上げている。
「また〜?! さっきも、どっかへ行っちゃってぇ。
あの娘さぁ、わたし達と一緒に滑るのがいやなんじゃないの?!」
麻耶が背中越しに言葉を返すと、
諒子がゴーグルのくもりをグローブで拭いながら言った。
「下まで行って待っていればいいじゃない。
いつ天気が崩れるか分からないもの、
今のうちに滑っていようよ。結構冷えて来てもいるし・・・・」
「だめよ、そんなことしたら。
わたし達を探せなくなったらあの娘すぐ泣いちゃうから。
この前だって、呼び出しのアナウンスまでかけちゃって、
みんなの名前をスキー場に鳴り響かせたじゃない」
「・・・・あのときは、仕方なかったんじゃないの?」美球がつぶやく。
「もう、恥ずかしくって。
だから、亜紀と来る時に変に休みなんか取ってきたら、
あとで遊んでいたことがばればれっていうことにもなりかねないからね。
注意しないと・・・・」麻耶がゲレンデを見上げながら言った。
(以下略)