自動車中隊の編成
風聞に依れば、幸に昭和十三年一月、
私達当地方の管轄であります金沢第九師団輜重兵連隊に、
新しく自動車中隊第三中隊が編成せられたと聞きましたので、
何も解らないのですが、
若しも出来得ればその自動車隊に入隊出来ないだろうか、
出来得られたらと一毫の夢に託しました。
早速、町内の某書店で参考書等を買求め、
日中は農作業、夜は青年学校の夜学の余暇を求めて、
夜中遅くまで勉強、少しばかりの予備知識を得ました。
しかし残念ながら、当時、我が地方には自動車は申すに及ばず、
自転車も珍しい程です。自動車に類するものは何もありません。
町内に一台類する物となれば、安井医院の安井平先生が、
オートバイの脇に小さい舟型の乗物が
取り付けて有る乗物(側車と言ふ)があるだけです。
夜は毎日々々夢ばかりです。
しかし、幾ら考へても実際に運転を習ふべき車が無ければ不可能ですが、
無理を承知、不合格を覚悟の上で、
右も左も解らないまま若さに任せ、無我夢中で突き進みました。