ゆう子の手がうずうずしていた。今日は、うさぎ係りを決める日だ。
松井先生が、
「うさぎ係り」
と言ったときにはもう、腕は上にのびていた。
ずっと前から、四年生になったら、うさぎ係りになろうってきめていた。
うさぎが好きなのは、あたり前だけど、もう一つ理由があった。
お母さんが仕事で家にいないことが多いから。
お母さんは半年の間、スーパー、喫茶店、
パン屋さんと三つも仕事を変わっている。
今度ファストフードのお店をやめて、
グループホームで働くって言い出した。
「グループホームって何?」
「認知症の人たちが暮らしている所。その人たちの世話をするのよ」
「ニンチショウって」
「いろんなことを、忘れてしまう病気よ」
「よくわからないけど、どうせ、すぐやめるんでしょ」
ゆう子のいやみな言い方に、お母さんは、ごきげんななめな顔で、
「やめるにはやめる、理由があるのよ」
といいわけをする。
(以下略)