母のこと
父には周囲の者が勧める嫁となる人が隣村にいた。
彼女は農家の娘だったから、父に嫁いでも家の田畑での即戦力となれた。
しかし、父は母との結婚を選んだ。
母の実家は町場で写真館を営んでいた。
母は一度嫁いでいたが、姑と合わず出戻っていた。
母は実家でブラブラしていたが、
彼女が親戚の家に遊びに出掛けた際、父と出会っている。
父方の者はこの母との結婚に皆反対した。
それでも父は強引に結婚してしまったのだ。
二人の情熱で私がすぐに生まれ、一年もすると燃え尽きてしまう。
母は、次の子を孕んだまま父と別れ、実家に帰って行った。
生まれた子は、まだ若かった母のため、
子の無い夫婦に養子として出される。
私は父の元に引き取られていた。
その後父は自分の職場である小学校の職員と結婚する。
相手も、離婚歴のある子持ちの人だった。
彼女は山間の寒村へ一人息子を連れ、
家財道具と共に私と父の暮らす家に入った。
ところが、彼女も一年足らずで父と別れるのだ。
雨上がりの薄暗い日に彼女等はどこかへ去ってしまった。
乳飲み子を残して・・・
女の子だった。
(以下略)