ぼくは捨てられたんだ。
そんなことは知らないで、
パパとママが助けにきてくれるのをじっと待っていた。
2004年10月23日、オーストラリアはこれから初夏に向う季節だった.
西オーストラリア州郊外にあるA市のユニット32の小さな裏庭に、
10mをこえる針葉樹が2本あった。
ぼくは、
そのうちの一本の木で10日前に卵からかえった大バトの子なんだ。
ぼくには5日違いのお兄ちゃんがいる。
今朝、パパとママが出かけているとき、お兄ちゃんが勢いよく翼を広げたものだから、
ぼくはそのはずみで巣の外へはじき出された。
巣のある5mほどの高さから、あっという間に砂地に落ちてしまった。
ぼくはまだ飛べないんだよ。
だから、巣の木の近くにあるベンチの下で、
パパとママの帰りを待つことにした。
朝8時頃、この家の女の人が庭に水をまきに出てきた。
ぼくに気がついたらしく、
「あら、まあ」といって、
ホースを捨てて家の中に入っていった。
しばらくして男の人が、
「どこ?」といいながら、
女の人について庭に出てきた。
ぼくを指してじろじろ見るものだから、落ち着かなくなってきた。
それで、ベンチを離れ庭木の茂みの中へ走って逃げた。
うかつにも茂みの間から頭をつき出してしまい、そこで女の人につかまえられた。
「ネコに食べられちゃうよ」と、
ぼくを両手で包みこんだので身動きがとれなくなった。
それから、ぼくはプラスチックのケースに入れられ、裏庭に面したガラス戸の内側に置かれた。
ケースの中でうずくまり、パパとママにぼくのいる所がわかるだろうかと心配した。
心細くて無性にパパとママに会いたかった。