はじめに
「私は、とてつもない本に出合ってしまった」
原書Sino-Iranicaを読むたびに感嘆しています。
そう思うのも当然です。
英語が少しばかり読めるぐらいの身(Cレベル上)で、
東洋学の範疇の辞典ともいえる原書の意味訳に取り組んだのですから。
この本と出合ったきっかけは、
松本清張氏が『火の路』本文中で記した『シノイラニカ』でした。
何やら、日本語にも通じる語源のルーツが分かるらしい、
提示されたその数行に突き動かされました。
初めて原書に向き合った頃は英語から遠ざかっていたため、
読むのは正直しんどく、「この本には、植物やアロマが書かれている。
けれど、どこに日本語のルーツが記されているのだろうか
・・・とにかく進めてみよう」
とインターネットで中国語表記を確かめながら、読み進めました。
契約していた本の出版に充当する作業が目的でした。
次第に、音韻言語学が面白くなりました。
(私は修士を持たないので、適切な表現ではない部分を
多くの読者は発見されるかもしれません。)
作業を進めるうちに、
世界に伝播していった名称の呼び名を知り、楽しくなりました。
人が新天地に降り立つと、自国にはない物産品に惹かれ、
それらを自分の国に伝えようとします。交易の始まりです。
私たちは異国の品を伝播する時に、
異国の呼び名に似せて伝えているのだと原書より知りました。
異なった気候環境下の言語の発音が、多少、変化に残るぐらいのようです。
2007年、ペトラ遺跡に向かう石の路には、
両脇が石で建造された水路が敷設され、ピスタチオが実っていました。
歩きながら、フスダス・フスダシウと、
原書で日本の植物学者が訳した名称を知り、思わず声が出ました。
まだ翻訳は形になっていませんでした。